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冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,890
(2009-12-01)
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時は四代将軍・徳川家綱の世。将軍家に使える碁打ち衆の一人である渋川春海は、訪れた神社の算学絵馬の中に、一瞥即解のとんでもない人物がいることに気がつく。かねてから熱中していた算術であっただけに、春海はその人物に興味をいだき探し始める。そして碁打ちであるだけでなく、神道や測地、暦術にも造詣のあった春海に、ある命が下された。
からん、ころん、と絵馬の鳴る音にのって、天地を解き明かす春海の運命が回りはじめる。
算数は苦手だけど、本当に面白かった! 学問とはかくも面白いものであったか、とかふんぞりかえって偉そうに言ってみたくなるくらい面白かった。
主人公の渋川春海の一代記で、日本独自の暦を築き上げる、算術やら天文学やらの研鑽の話。何やら難しそうだけれど、主人公やそれを取り巻く人達がとっても魅力的で、しかもみんな各々の道に情熱を燃やしていて熱い。登場人物達みんなが愛おしくなるくらいすごく好きでした。会うたびに春海を叱り飛ばす女の子とか、無邪気に星を待って計測するお爺ちゃん二人とか、苛烈に囲碁に取り組む青年とか、算術道場の先生とか、マッチョで豪気な黄門様とか、飢饉を負かした大殿様とか、ギリギリまで登場しなかった天才とか。(先生の晩年だけが言及されてなくて気がかりなんですが・・・)
あって当たり前なカレンダーだけど、思えば暦があるってすごいことだ・・・ 自分の体の尺度からはとても想像できない途方もない距離と大きさで、空のずっと高くでキラキラしてる天体の動きを予測してあるんだもんな・・・ 観測の記録じゃなくって、おこる前から計ってあるなんて。
あくまでも小説だから、実際がどうであったかの真実ではないけど。でもこんなふうに学問に熱狂する人がいて、天下が平らかであるように粉骨砕身して政治に取り組む人がいて、国や町そのものにも活気があるような、そんな時代が本当に日本にもあったんだろうかと思う。(しかも算術の道場まで・・・)きっとあったんだろうし、今でもそんな人もいるのだろうけれど、夢とか希望が空々しく聞こえるくらい殺伐とした昨今だと不思議な気さえする。色々なことが淀んでドン詰まりのようにみえる現在と、これから先へ伸びて行こうとする時代と、さぞかし人も世間の空気もちがうだろうなぁ。江戸の町なんかをふらふら散歩してみたいなぁ。
こういった歴史小説を読んでいると、自分がいかに日本史を忘れているかを思い知らされる。あ、そんな人もいたっけかな状態。教科書くらいはもう一度読んでみよう。それと暦なんてとてもじゃないけれど、天体は好きだからもう一度理科の図表くらいはさらってみよう。星座盤が好きです。
読みはじめる前はその意味も特に何とも思っていなかったけど、読み終わって改めてみると『天地明察』だなんて、なんて格好良いタイトルなんだろうと思った。良い初読みでした。
『天地明察』 沖方丁(著) 角川書店 2009年11月