天球儀観測

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愛蔵版 モモ
愛蔵版 モモ (JUGEMレビュー »)
ミヒャエル エンデ
【読書メーター】
空色さんの読書メーター
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『時の地図』 上・下.....
 1896年、H・G・ウエルズの『タイム・マシン』の出版で空前の科学ブームがおこり、西暦2000年へのタイムトラベルツアーが人気をはくしているロンドン。
 切り裂きジャックに惨殺された恋人を、時をさかのぼって救いだそうとする大富豪の息子。2000年へのタイムトラベルツアーで出会った未来の男と、時をこえたロマンスにおちる上流階級の娘。殺人現場の壁に、書きあげたばかりでまだ誰も読んだことがないはずの自身の小説、『透明人間』の一節を発見して愕然とするウエルズ。三つの出来事の秘密と、その先であかされた驚愕の真実は?

 切り裂きジャックにウエルズにエレファントマンに他にも沢山、聞いたことがある人達がひょっこりでてきて、オマージュ的な要素もあって楽しかった。ついでにジュール・ヴェルヌやコナン・ドイルなんかも、噂だけじゃなくて登場しちゃえばよかったのに。(ドイルのことを「妖精さえ信じるような男だからね」って言ってる場面にニヤッとした)『タイムマシン』昔読んで実はそんなに好きじゃなかったけど、なのに何故か今でも内容おぼえてるなぁ。
 三部構成で、それぞれの話をつなぐ核にウエルズと時間旅行会社があり、三部でついに真打ちウエルズが主役に。一部と二部の、独立した話としても成り立ちそうな話がどう結末につながるのかや、その二つの話の裏側を踏まえて突入する三部では誰を信用したものやらって感じで、全然先が読めませんでした。しかもタイムトラベルの醍醐味がつまってる!単純に過去へ行く未来へ行くじゃなくて、時間を行き来できるからこその展開でした。(あのときああしたから、この出来事はこうなって、でも時間軸はあっちが先だから・・・的なこと考えてたら大混乱するけど)
 それから単なる時を駆けるタイムトラベルだけじゃなくて、なんだかジャンルをまたにかけたような突飛さもあって、でもそれも必然で、すごいなぁと。
 ただ全体的な話の進め方やなんかが妙にまわりくどくて冗長なところがあって、その辺はちょっと退屈だった・・・テンポがあがって気にならなくなったのは下巻の真ん中あたりから・・・でもその持って回ったような話の進め方が、逆に一昔前のロンドン的なクラシックな雰囲気をかもしだしているんだろうとも思うんだけど。個人的に、神の視点にいる作者が「読者諸君!」ってふうに、作中で語りだすのが好きじゃなくて(なんか小さい頃からこのパターンが嫌いで)ひっこめ!と思った(ごめんなさい)。
 この冗長さになじめない人は多いような気もしないでもないけど、奇想天外ですごい本でした。全体のからくりを暴露してしまいたい!

『時の地図 上・下』 フェリクス・J・パルマ(著)
  宮崎真紀(訳) 早川書房 2010年10月
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『神去なあなあ日常』.....
三浦 しをん
徳間書店
¥ 1,575
(2009-05-15)

 高校卒業と同時に突然放り込まれた山奥で、なぜかチェーンソーをにぎる羽目になった平野勇気。携帯は圏外、気の抜けたような方言、住民はみんな顔見知り、ろくな交通手段もなくて脱走すらできない神去村。そんな土地で嫌々ながらも林業見習として働くうちに、神去の自然に人々に、しだいに魅せられていく一年・・・

 読みやすくて楽しかったです。のんびりとしてて風景描写が綺麗でってだけではなくて、でてくる人達が色んな意味で素敵です。笑えます。のんびりしてて信心深くて、でも町の感覚からみるとぶっ飛んだようなことがあたりまえだったり、最後の命がけな大祭なんかとんでもなさすぎてもう・・・ 逆に参加したくなった!
 神去の深い山や綺麗な川や、桜の大木や蛍や天の川を見てみたい! そして花粉症の身だけれど、「午後の胞子を飛ばしている・・・」ってくらい花粉がふりそそぐ光景ですら実際に見てみたいと思えました。そんな場面に遭遇したら、鑑賞する前にクシャミと鼻水と目のかゆみで悶絶するだろうけど。(やっぱり林業してても花粉症の人はいるよね・・・ スギ花粉浴びながら仕事なんて恐ろしくて想像を絶するけど、頑張ってるんだろうなぁ。)
 この話、映像で見てみたいなぁ。林業には全然なじみがないし、樹齢何百年とか千年の木が鬱蒼としげった森っていうのも即座には想像つかないし、何より神去村を見てみたいなぁ。

『神去なあなあ日常』  三浦しをん(著)  徳間書店 2009年5月
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『おやすみラフマニノフ』.....
 事の始まりは、完全密室の保管室から消えた、時価数億のストラディバリウスのチェロ。
 大学内の選抜メンバーによる秋の演奏会へむけて、そしてプロへの狭き門に少しでも近付くため、日々練習を重ねる音大生の城戸晶。チェロの消失からたてつづけにおこる、演奏会そのものをつぶそうとするかのような事件と、音楽で生きて行くことが難しい将来への不安も相まって、次第に疑心暗鬼に囚われるオケのメンバー。いったい誰が、何のために? プロになることを固く誓う晶の前に、突きつけられた真相は?

 前作の『さよならドビュッシー』のときに、曲がいまいちわかっていなかったので、今回は作中にでてくる曲を聴きながら読んでみました。パガニーニとかチャイコフスキーとか、もちろんラフマニノフも。きちんと全部聞いてみて思ったけど、「あ、この曲知ってる」って思うような有名なフレーズは本当に曲の中のワンフレーズで、それだけでなんだか知っているような気になっているだけで、ちっともわかってなかった。にしてもパガニーニ、ド素人にもそれとわかるくらいの、とんでもない超絶技巧・・・ バイオリンってあんな弾き方もするんだ、と思った。(“ラ・カンパネラ”は、パガニーニの“鐘の音”が元だったんだね・・・なんかもう色々わかってなさすぎていることにはじめて気がついて、ヒヤヒヤする) クラシックに造詣のある人は、もっと高度に楽しめるのではないかと。
 曲を聴きながら作中の音楽の描写を読んでいったら、第一主題とかそんなのはさっぱりわからなくても「あ、このへんのことか」とわかっちゃう表現がすごい。でも作中で演奏するごとに力いっぱい曲を描写してくれるから、若干食傷気味でもありましたが。
 ミステリなんだけど前作同様、人間ドラマや犯人捜しや謎解きよりも、音楽の方が比重が多い感じ。犯人はなんとなく想像はついていたけど、その後にもう一つ種明かしが待っていてビックリでした。そんな真相もあったのって。(ただ音楽を聴きながら読むと、曲はよくわかるんだけどいまいち集中しきれなかった。ままならないわ)
 探偵役の岬先生は相変わらず素敵でした。ピアノはもちろんすごいし、盗み聞きにも気付くし、ゴロツキは軽く取り押さえた上に穏やかにぐうの音もでないくらい脅すし、メフィストフェレスのような舌先三寸で上手に相手を手玉にとるわ、音楽家の究極の夢じゃないかとか無邪気に言って指揮者までこなしちゃうし。この人何者?!ってくらい完璧すぎです。万能すぎる・・・
 ドビュッシーの時系列と若干かぶっているらしくて、前作の主人公がその後どうなったのかなぁと気になってたんだけどでてきませんでした。でも前作で感じ悪かったプチ子さんがちょっとだけ好きになりました。

『おやすみラフマニノフ』  中山七里(著)  宝島社  2010年10月
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『悦楽の園 上・下』.....
 妥協を嫌い、クラス内で微妙な位置にいる優等生、相原真琴、13歳。席替えで彼女の前にやって来たのは、妙に言動のずれた小柄でひょろひょろな南一。そんな彼が描く奇怪な落書きに 「・・・素敵ね」 と社交辞令をかえしてしまったところからはじまった、 “普通” であることへの彼女たちの戦い。

 文庫版の表紙の方が好きだなぁ。単行本の表紙を見たとき(たぶんヒエロニムス・ボスの絵じゃなかったかなぁ思うんだけど)は、タイトルの悦楽の園とあいまって、大人の男女のドロドロ話なのかと思ってました・・・ 全然ちがいました、青春小説です。
 たぶん木地さんの話は、すっごく共感できる人と、全然共感できない人がいるんじゃないかという気がする。共感できる人はやっぱり人生のどこかで、今在る場所への息苦しさを感じてきた人だろうと思う。そんなおぼえのある人や、今ジタバタしてる子はぜひとも読んでみてほしい。で、逆に世の中をスイスイわたって来た人の感想も聞いてみたいです。こんな風に足掻く子達は、あなたの目にはどんなふうにうつるんですか〜?って聞いてみたい。
 中学校くらいの頃に、この本を読んでみたかったなぁ。もっと破壊力があったと思うし、その頃の私の感想も聞いてみたい。その他大勢の皆さんと同じ “普通” でないと許されない場所で、それでも迎合せずに、別の場所を求めるのではなくて今在る場所で戦う話。そんなはみだしっ子が暮らすには、主人公の家庭環境は出来過ぎなくらい恵まれているけれど、それでも傲慢なくらいの強さを持ち続けることができるのは眩しい。あぁそうだ、こういう戦える力が欲しかったんだよなぁ、と。しょうがないし、そういうものだから、とかではなくて、あの頃のとんがった感じをもう一回叩き起こしてこなくっちゃと思いました。むしろ、忘れかけてる自分に愕然とするくらいショックだ・・・
 スクールカーストの主流派の女の子達と、主人公の “「××くんってー、髪の長い女の子とー、髪の短い女の子とー、どっちが好きー?」 あんたらがいっちばん、ヘンよっ!!” にすっごく嬉しくなりました。主人公の後ろから、そうだそうだっ!!って叫んでやりたいくらい、よくぞ言ってくれましたって気分でした。

『悦楽の園 上・下』  木地雅映子(著)  ポプラ社 2010年5月
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『スロウハイツの神様』 上・下.....
 脚本家の赤羽環をオーナーに、スロウハイツに住む人達。ファンのおこした事件をきっかけに一時期筆を折っていた人気作家に、漫画家と映画監督と画家の卵。それぞれの道で悩み、足掻きながらも平和に暮らしていた住人たちだったが、新しい入居者が不穏な空気をつれてきて・・・

 全然上手にあらすじ紹介できないけど、すっごく面白かった! 上巻でのなんとなく波乱を含んだような住人達の平和と葛藤と、下巻では複線回収と種明かしとで綺麗にまとまって、ハラハラしていたのに最後は笑って読み終えられた。最後の正義のセリフの「あらゆる物語のテーマは結局愛だよね」ってことなんだろう。それと読んでいたらチョコレートケーキをホールで食べたくなった。
 登場人物たちもそれぞれとっても好きでした。でもスーの恋愛状況に全く共感できなかったのは、やっぱり私にそういう感覚がたりていないからなのかなぁ。なんでそんなのを好きになるの?って思う。恋をしてしまったからどうしようもない、な感覚がわからない・・・ 駄目だなぁ。
 自分の手で何かを作ること、それで誰かに影響を与えてしまうことや与えることができるのかということ、親切なのかエゴなのか、突然降りかかった事件とそれを祭り上げるような世間とか。トントンと読めてしまうんだけど、住人達の会話とか覚悟とかは深くてえぐるような所もあった。また読みかえさなきゃなぁ、と思う。(でも読みたい本も読み返したい本も沢山ありすぎて追いつかない・・・)
 他の話も早く読もう。とりあえず次は、スロウハイツの作中の売れっ子作家チヨダコーキが書いた『V.T.R.』を、辻村さんが小説化したのがあるからそれを読む!

『スロウハイツの神様 上・下』  辻村深月(著)  講談社  2007年1月
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『着ればわかる!』.....
酒井 順子
文藝春秋
¥ 1,400
(2010-09)

 自衛隊にスチュワーデスにセーラー服な制服系から、ゴスロリ、タカラジェンヌにキャバ嬢と幅広く変身しつくしたコスプレエッセイ。

 変身した時の気分の高揚から、着てみて初めてわかるその服の機能的な作り、心理的な感覚まで面白可笑しく書いてあって、楽しく読めた。体験エッセイって、書き手がそれにたいして感動や思い入れがなかったら、単なるレポートみたいで退屈だったりするけど、これは筆者がノリノリで面白かった。巻末には写真までついてて、キャバ嬢のコスプレやってみたくなりました・・・ 思いっきり写真を修正して名刺を作るらしく、そうとわかっててもキレーだ。ゴスロリもしてみたいけど、堂々と表通りを歩く度胸はないな・・・
 平安女性がなぜ顔を隠すのかとか、ビーチバレーはなんであんなに露出させたユニホームなんだろうとか、そういったことも(それが正解かはわからないけれど)コスプレして体感した人からの視点で書かれていて、あぁそうなのかも! と思った。コスプレ楽しそうだな〜!

『着ればわかる!』  酒井順子(著)  文芸春秋  2010年8月
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『天地明察』.....
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,890
(2009-12-01)

 時は四代将軍・徳川家綱の世。将軍家に使える碁打ち衆の一人である渋川春海は、訪れた神社の算学絵馬の中に、一瞥即解のとんでもない人物がいることに気がつく。かねてから熱中していた算術であっただけに、春海はその人物に興味をいだき探し始める。そして碁打ちであるだけでなく、神道や測地、暦術にも造詣のあった春海に、ある命が下された。
 からん、ころん、と絵馬の鳴る音にのって、天地を解き明かす春海の運命が回りはじめる


 算数は苦手だけど、本当に面白かった! 学問とはかくも面白いものであったか、とかふんぞりかえって偉そうに言ってみたくなるくらい面白かった。
 主人公の渋川春海の一代記で、日本独自の暦を築き上げる、算術やら天文学やらの研鑽の話。何やら難しそうだけれど、主人公やそれを取り巻く人達がとっても魅力的で、しかもみんな各々の道に情熱を燃やしていて熱い。登場人物達みんなが愛おしくなるくらいすごく好きでした。会うたびに春海を叱り飛ばす女の子とか、無邪気に星を待って計測するお爺ちゃん二人とか、苛烈に囲碁に取り組む青年とか、算術道場の先生とか、マッチョで豪気な黄門様とか、飢饉を負かした大殿様とか、ギリギリまで登場しなかった天才とか。(先生の晩年だけが言及されてなくて気がかりなんですが・・・)
 あって当たり前なカレンダーだけど、思えば暦があるってすごいことだ・・・ 自分の体の尺度からはとても想像できない途方もない距離と大きさで、空のずっと高くでキラキラしてる天体の動きを予測してあるんだもんな・・・ 観測の記録じゃなくって、おこる前から計ってあるなんて。
 あくまでも小説だから、実際がどうであったかの真実ではないけど。でもこんなふうに学問に熱狂する人がいて、天下が平らかであるように粉骨砕身して政治に取り組む人がいて、国や町そのものにも活気があるような、そんな時代が本当に日本にもあったんだろうかと思う。(しかも算術の道場まで・・・)きっとあったんだろうし、今でもそんな人もいるのだろうけれど、夢とか希望が空々しく聞こえるくらい殺伐とした昨今だと不思議な気さえする。色々なことが淀んでドン詰まりのようにみえる現在と、これから先へ伸びて行こうとする時代と、さぞかし人も世間の空気もちがうだろうなぁ。江戸の町なんかをふらふら散歩してみたいなぁ。
 こういった歴史小説を読んでいると、自分がいかに日本史を忘れているかを思い知らされる。あ、そんな人もいたっけかな状態。教科書くらいはもう一度読んでみよう。それと暦なんてとてもじゃないけれど、天体は好きだからもう一度理科の図表くらいはさらってみよう。星座盤が好きです。
 読みはじめる前はその意味も特に何とも思っていなかったけど、読み終わって改めてみると『天地明察』だなんて、なんて格好良いタイトルなんだろうと思った。良い初読みでした。

『天地明察』  沖方丁(著)  角川書店  2009年11月
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『アンゲルゼ』 全四巻.....
 あらすじ紹介はなんだか書けそうにないので省略。上の表紙は最終巻のです。最初の三巻の表紙は下の記事の。
 やっぱり須賀さんの話好きだ〜!ライトノベルとか少女小説の肩書がついてると、なんとなく読者が限定されそうな気がするんだけど、もったいない〜!てか、ちがう意味で少女小説ではないのでは・・・ ライトノベルとかむしろ最近読みはじめたくらいなのでたいして造詣は深くないのですが、少女小説ってもっとこう、ちがうよね?なるべく目立たないように過ごしている気弱なヒロインが、何やら不思議な力に目覚めちゃった所まではともかく、その後スパルタな軍事訓練受けて吐いて倒れてるのとかなんか違うよね?でもそんな所もふくめて須賀さん好きです。(こんな書き方すると色々誤解されそうだけど・・・)
 このシリーズは打ち切りっぽくなって大急ぎで終わってる、ってちらっと目にしましたが、それでも綺麗にまとまっててしかも深くて濃いです。残りページこれで足りるんだろうかとハラハラしたけど。でももっと続きを読みたいなぁ。主人公だけでなく、他の登場人物の成長とかみたい。上層部の思惑とか組織の総意と、自分自身の良心と信念のとの葛藤とか、作中の過酷な状況が想像をこえててなんだかクラクラする。
 須賀さんの話も、あれとかそれとかみたいに、一般文庫化したらいいのになぁ。とくにそれなんて、全体的には好きだけどなんだかご都合主義なところもあって違和感を感じるんだけど、それより女神伝とか完成度高いと思うんだけどなぁ。要はもっと語れる人がまわりに沢山いたらいいのになってことなんです!

『アンゲルゼ  孵らぬ者たちの箱庭
        最後の夏
        ひびわれた世界と少年の恋
        永遠の君に誓う』
 須賀しのぶ
(著)  集英社  2008年3月・6月・9月・12月
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『孤宿の人』.....
宮部 みゆき
新人物往来社
¥ 1,890
(2005-06-21)

宮部 みゆき
新人物往来社
¥ 1,890
(2005-06-21)

 瀬戸内海に面した、自然豊かな丸海藩。西方にある金毘羅様への旅籠町として、また名産の染め物でそれなりに豊かな藩であったが、そこへ突然江戸から流人がやって来ることとなる。それは幕府の勘定奉行まで務めた高官だったが、乱心して妻子と側近を殺したという。そしてその流人の訪れと共に、まるでその所業をなぞるかのように、丸海藩で不審な病と災厄とがおこるようになり・・・

 なんて悲しくて優しい話だろう、と思った。もっと早く読んでおけばよかった。これはすごくお勧めです。またいつか、またあらためてゆっくり読んでみたいです。咀嚼して身にしなきゃいけないことがたくさん残っている気がする。下巻に入ったあたりからの展開には圧倒されるし、最後は感動とやるせないのとで泣けてくるし・・・ なんだかまだ気持ちが落ち着かない。
 江戸からの貴い身分の流人を藩でひきうけることになり、それによって噴出してくる問題と各々の黒い思惑と、領民の不安やそれと裏返しの好奇心。妻子を殺して鬼だ悪霊だ乱心だと言われて丸海藩におしつけられた加賀様の存在をきっかけに、それを隠れ蓑に自ら鬼になる者、真実を知りながら耐えて隠さねばならない者、覚悟して見守る者、無垢なままで精一杯生きている者と主要な登場人物たちから、名前のない行間の人々まで、あらゆる人の思いがうねりを巻いて最後にはとんでもない嵐が巻き起こります。
 なじんだり好感を持った登場人物があまりに理不尽なことで命を散らしていくし、真実には蓋をしてその上には藩の大事で重しがしてある。身分だのお家だの建前だの、そんなものでどれだけ命が消し飛んだことか。ただ善良であったり何かを守ろうとしたり、職務に忠実であろうとした人たちが、なんで実体のない表沙汰にできない悪意を守って、こんなことになるんだろう。でも伏せられた真実を明るみにすれば、救われる人や正しく裁かれる人を飛び越えて、もっと大きなものがひっくりかえる。そして最後の最後で読者にわかる真相は、誰も責めようのないことで・・・ なんてままならないんだろう。
 あがいて迷い続ける宇佐の気持ちにはすごく共感するし、事を納めようとする人達の生き方もわかりたくないけどわかる。でもきっと最後には全てが明るみにはでなくとも、あるべき所に収まってくれるんじゃないかと心底願ってしまうのは、やっぱり青いのかなぁ。
 そんなことを並べていると、なんだかつらいばっかりの話に思えるけど、でもこの話全体に流れている空気はなんだか細やかで温かい感じがする。ほうと加賀様の手習いの時間は、なんだかすごくホッとしたし可笑しかった。仔細を理解できないまま導かれたり翻弄される無垢なほうと、それを思う宇佐や加賀様たちの気持ちのせいなんだと思う。人は愚かだし病むし鬼にもなるけれど、それでも優しくいとおしいものなんだという気がしてくる。これから先、どうかどうかほうには幸せに生きていってほしい。

『孤宿の人 上・下』  宮部みゆき (著) 人物往来社 2005年6月
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